蔦屋雑文堂

大江戸珍味ベトナムを行く・・其の弐

 ニャチャン製のニョクマムはとびきり旨い、と物の本には書いてある。ニャチャンは、サイゴンから飛行機で1時間くらいの海辺の街だ。ビーチが続き、そこでは朝夕に地元の子供や大人がぼーとくつろいでいる。働け〜、今日は平日やろ〜と思わず喝を入れたくなるくらい、みなさんひねもすのたりとしている。夜ふけにチャリンコで走っていて思ったが、とっても沖縄の空気に似ている。昼はさほど思わなかったが、夜の空気の匂いは沖縄と一緒でした。

  

 まぁ、市場へ行ったり、養命酒の味がするロシア製の怪しいシャンペン(ホテルのプライベートビーチでフルボトルでオーダー。1万2000ドン=1200円)を飲みながら、現地人よろしくひねもすのたりと過ごしていた。初日に比べると、大分慣れてきて、「ベトナムもいい国じゃん、にくめないじゃん」なんて生意気な口をたたいたりしていた。が、そんな感傷はあ、まーい!といわねばなるまい。

 たっぷり寛いで、さて、サイゴンへ帰ろうと空港へ行った。15時40分発のベトナム航空だ。調子づいてた我々は、空港に行くまでタクシーをチャーターなんかして、あっちへ行け、こっちへ行けと豪勢な振る舞いをして、カフェでくつろぐから、ここでお待ちなんてこともやって、チップまではずんで(といっても合計100、000ドン=1000円)空港に降り立った。

 「今日は機械の調子が悪いから飛びまへんで」と、ボードに書いてあった。誰もいない。売店のねーちゃんとおっちゃんがだべっているだけ。ちょっと顔面にブルーが入る。「英語しゃべれまっか?」と聞くと、「いーえー、わかりまへん」とベトナム語で答える。あとは「にゃーにゃーみゃーみゃー」というベトナム語(南部系)で何やらしゃべって「わははは」と笑っている。でも航空券を見せると、「あ〜これは飛びまへんなー」というような事を首を振りながら言って、「にゃはははは」と笑う。

 ちょっと待て。いくら飛行機が飛ばないからって、空港に我等以外3人しか人がいないということはあるまい。しかし、空港のカウンターもデスクも、事務所内に不法侵入したって、誰もいない。もぬけの殻。顔面、総ブルー。ほんまに、が・らーんとしている。鳴呼、ここはベトナム。どうなってるの…。

 「そうだ。サイゴンのツーリスト会社へ電話しよう!」思い立って、公衆電話を探す。ないないなーい!トイレしか、なーい!「テレフォーン!」と身振り手振りで、ねぇちゃんに訪ねる。「おまへんな〜」と返事。タクシーを呼ぼうにも、電話がなけりゃ、どうしようもない。重たいスーツケースに、荷物一式、30度は越えている真っ昼間のベトナムを、とぼとぼ歩く。ホテルへ行けば電話があろう。しかし、空港に公衆電話もないなんてのは、文明国の私たちには想像もつかなんだ。甘い、甘い。

 飛行機がなけりゃ、鉄道だ、とは薄々感じてはいたが、それでも1日1便の飛行機が飛ばないことがどうも信じられなくて、(だって快晴)、何か安堵が欲しくってツーリスト会社へ電話。「あ〜飛びませんか。じゃ、明日の飛行機を待つか、鉄道ですね。でも明日も飛ぶかもしれないし、飛ばないかもしれないし〜」と、とってもあっさりした返事。明日も飛ばないかもしれないなら、仕方あるまい。「夜行列車、すぐチケットとれますか?」「だいじょぶ、だいじょぶ。外人旅行者向けのいいベッドのコンパートメントもあります。」そうか。そうか。いいベッドのコンパートメントもあるなら、話のネタだ、ニャチャン駅へ行こう。18時発だから、早めに16時に行くとして、昼飯くらいはゆっくり食べよう。電話を借りに飛び込んだ「ホテル アナマンダラ」は、この国なら超が5つくらいつく高級ホテル。日本で宿泊するなら3万以上は絶対するくらいの高級リゾートホテルだ。ヨーロッパの香りとシノワズリの趣味が、とってもモダンに調和している。ミセスとか家庭画報に載っても絵になるぞ。日本人皆無。まだあんまり知られていないんじゃないか。ここはおすすめ。1泊室料135ドル〜。ベトナムにいるのを忘れるほど、優雅、エレガント、ビューティフル。

 「ま、旅にハプニングはつきものよ、ここで飯が食えるし、よかったじゃん」なんて生意気なことを言って、久しぶりのイタリアン料理をいただく。上品なお味のタリアテッレざんす。食後のコーヒーには手作りのクッキー付き。オードブルもいただいちゃって、二人で33ドル。こっちの感覚でいえば、1か月分の給料ぐらいを、昼飯ごときで消費しちまったことになる。お〜ほほほほ。なんて優雅な私たちざんす。「じゃ、タクシーで駅まで行ってくださるかしら〜ん」。優雅なる昼飯ですっかり現状回復した我々は、勇んで駅へ。チップもはずんじゃうわ。

 「サイゴンまで。ソフトベッドのコンパートメントね。18時発の」と、アオザイを着ているが、何か威圧感のある切符売りのおばちゃんに言う。「ないです。売り切れ」。ちょっと顔面にブルー。「18時発は全部売り切れ、21時発のならある」「じゃ、それのソフトベッドのコンパートメントを」「ない。この列車にはハードベッドの6人部屋のコンパートメントしかない。」愛想悪いおばやんが、愛想悪く売ってくれる。外国人は2倍か3倍くらい高い料金取るのに、愛想悪いったら。

 「列車のチケットは絶対だいじょぶ、ゆうてたやーん」とぶーたれながら、出発まで5時間もあるので再び街へ。すぐに現状回復する我々は、またもやホテルのルーフテラスで鍋料理をつつく。「うまいやんけー!もうツーリスト会社もガイドブックも信用せんわーい!わはははは」。そういう事を強気で言っているうちが花である。

 21時。再び駅へ。暗い。真っ暗。なんか怪しげな列車が入ってくる。7号車だけど、車内は真っ暗。「電気ついてない…」顔面にブルー。指定の6号室に入ると、すでにベトナム人が寝ている。案内係のいい加減そうなにいやんが、「みゃーみゃー」いいながら首をふる。「なんでやねん、私らここの号でおうてるやん」「みゃーみゃー」。ちきしょう、こいつ英語がわかってくれない。えーい関西弁じゃー「ダブルブッキングかいな〜」「みゃーみゃー」。ベトナム語がわかんないので、「こまるやんけー」とひたすらごねていると、(というより、ここで放り出されると、泣くしかない)お先に寝ているベトナム人に交渉して、彼に最上段(3段ある、最上段は膝も立てられないほどせまい)に行ってもらい下段のベッドを確保。15kgほどもあるスーツケース担いで、最上段には私、登れまへんもん。この間、真っ暗である。駅舎の灯が窓から差し込んで、ようやく見える程度である。これは、本当に不安になります。しかもみなベトナム語しか理解しないベトナム人ばかり。「こわいよーん、どうなるのー」という不安が起きない人は、よほどタフな旅人だ。

 ハードベッドは本当にハードでした。固い板にゴザがぺろんと一枚。布団らしきものがあるんだけど、先客共がぶんどっていて、ゴザしかありまへん。窓は閉まらない。駅に停まるたびに、「私たち物盗りもついでにやりまーす!」という感じの物売りが、入ってくる。1回の停車が20分間ぐらいあるから、物売り入り放題だ。こっちは飛行機に乗るつもりで荷造りしているから、パスポートだって航空券だって手荷物に気軽に入っている。眠れませんよ〜。おまけに走っているのは、ジャングルの中だ。往路の飛行機から地形眺めていたもん。「ジャングルの蚊に刺されると、病菌が感染することがあります」と確かガイドブックには書いてあった。山ん中らしき駅に停まっても30分ぐらい停車する。ぶんぶん蚊が入ってくる。「あ〜、もうどうなってもしりまへーん」という気分である。

 4時半。うつらうつらしていると、ベトナム人がごそごそしだす。見ると洗面所で列を作って、歯を磨いている。「おまえも歯磨きか、なら並べよ」と、気の良さそうなおじやんに言われる。なんでこんな早朝から列作って歯磨きするねん。到着は8時やろ。ほんまに理解できん奴らやな〜。ついでなので、トイレに入るが、何か白い丸い物が地べたと境界しているだけで、流す装置も見当たらない。はて?しばし黙考。開高健氏曰くの「原子爆弾」を落としたかったが、処理に困るので我慢する。

 6時。大音響のベトナム演歌風ロックが車内に轟く。「なんだ、なんだ」と飛び起きる。どうやら「朝ですぅ〜起きましょう」の合図らしい。その割りには、ボリュームMAXまでひねっちゃった〜という音である。「にゃーにゃー」の大合唱。たのむわー。もう〜。

 7時。朝ご飯の配給。弁当に入ったチキンラーメンのようなものが配られ、後からおばやんがスープを注いでくれる。この頃は外も見えて明るい。向かいに座ったにいやんが煙草を吸うので、こちらも吸うと中段のおばやんに「みゃーみゃー」と行って怒られる。どうも自分の息子は吸っても、外人のは許せんらしい。人種差別を受ける。

 8時。サイゴン駅に無事到着。ああああああああ。という気分である。荷物くれくれ〜持ってやるから金くれ〜というような、怪しいにいやん共を避けて歩くのも、昨夜の緊張感に比べればへである。タクシーのれのれ〜という客引きのおじやんも、へである。

 一夜にして、怖いものはなくなった。22万ドン(2200円)で、たっぷり修行させていただきました。


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